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お詫びして訂正します。
慶應義塾大学文学部 教授
平石 界
(ひらいし かい)
Profile — 平石 界
東京大学大学院総合文化研究科
博士課程退学。東京大学,京都
大学,安田女子大学を経て,2015
年4月より慶應義塾大学。博士
(学術)。専門は進化心理学。
某Twitterを見ていてふと #cyclewars とい
うハッシュタグが目に付きました。ちょうど
Covid-19でさまざまなスポーツイベントが中止
や延期されていたので「ツール(7月に行われ
る自転車レース)で何かモメてるのかなー」と
ボンヤリ考えました。中を見たらぜんぜん違
う。「#周期戦争 で大ニュース! Gangestad
とDinhがArslanた ち(2018) に 喧 嘩 売 っ て
る!」(極端な意訳)と。bicycleではなくて,
menstrual cycle(月経周期)でした。
ヒトの性行動は,霊長類の中でも特徴的で
す。例えば目立った発情期が見られません。チ
ンパンジーなら,妊娠可能性が高い排卵期のメ
スはお尻がぷっくりとピンク色に膨れて,見て
すぐに分かります。でもヒトはそうでない。な
ぜヒトでは排卵期が「隠されて」いるのか。は
たまた本当に隠されているのか,長らく未解決
の熱いテーマとなっています。論点の一つが排
卵期女性の性行動についてのもの。
ヒトの子育てが恐ろしく面倒なことは,全国
的な子供の不登校を踏まえ,皆さんにも実感さ
れたことでしょう。哺乳類の多数派のような母
親のワンオペ育児なんて,とても無理。それで
ヒトのメスは子育てに積極的な配偶パートナー
を好むという話があります。でもね。「良いパ
パ」と「セクシーな男(オス)」って,必ずし
も一致しないんじゃない?
ある仮説は言います。「第三の道がある」。良
いパパをキープしつつ,セクシーなオスと子作
りすれば,虻蜂取れるではないか。具体的には
「長期的パートナーの性的魅力が低いと,女性
は排卵期にパートナー以外との性的関係にアク
ティブになる」と。「托卵女子」というド直球
な表現があるようなので,何を言っているのか
わからない方は検索してみてください。
それで色々と研究が行われてきたのですが,
必ずしも結果が一貫しない。ここは一つきっち
り大規模データを取ってやろうとArslanさん
たち(2018)がんばりました。結果は第三の道
仮説に否定的。それに納得行かない第三の道仮
説の提唱者たちが猛反撃したのが,冒頭の#周
期戦争だったのです。反論は広汎に渡ります
が,クリティカルヒットが。Arslanさんたち
が公開した分析スクリプト(計算手順)を見る
と,合成変数を作るときに未回答(欠損値)が
0点にされているというのです。元々が1 〜 7
点で回答している変数なので,不当に低い点を
割り当てていたことになります。ぐはぁ。
今回の騒動が「戦争」とまで呼ばれるにはそ
れなりの理由がありまして,両グループのや
り合いは今回が初めてではないのです。前回
はJüngerさ ん ら(2018) に,Gangestadさ ん
ら(2019) が 反 論 し て,Sternさ ん ら(2019)
が再反撃を加えるというものでした。どの論文
も熱い書きっぷりで,単体で読むといちいち説
得されてしまいそうになる。ヒトの思考は論争
に勝つために進化したのだ! という仮説があ
りますが,むべなるかな(Mercier & Sperber,
2011)。なので戦争の決着についての評価は控
えておきます。
ともあれ,こんな論争が可能なのは,分析
データやスクリプトが公開されているからこ
そ。間違いを指摘されるのは死ぬほど恥ずかし
いですが,それに気づくチャンスがあるのは有
り難いことです。ところで冒頭に紹介したツ
イートはLukaszewskiさんのものでした。「な
んか見覚えのある名前だな」って思った方は鋭
い! 前回の本連載で紹介したLaskowskiさん
と同一人物……ではないですね。はい,前回こ
のお二人を同一人物と混同しておりました。読
者の指摘で気付きました。不徳の致すところ,
お詫びして訂正します。